滋賀県の”大津絵”(おおつえ)について|茶道や煎茶道の掛け軸

滋賀県の大津絵
滋賀県の大津絵

みなさんは「大津絵」(おおつえ)というワードを聞いたことはありますか?

大津おそらくほとんどの人が聞いたことがないと思います。

浮世絵と同じような民俗絵画で、浮世絵よりも歴史があるのですが、あまり有名じゃありません。

どうも民俗学や歴史的資料として用いられることが多かったようで、専門家はしっている人が多いのですが、美術館や博物館に常時展示されているものではないので、一般の方々への知名度が低くなってしまっているようです。

そんな大津絵をもっと多くの方に知っていただきたく、今回は大津絵について、その発祥の地である滋賀県大津市に行ってきた記事をまとめましたのでご紹介させていただきます。

大津絵とは

大津絵とは、江戸時代初期から 滋賀県大津市と京都市の中間あたりの大谷(おおおたに)・追分(おいわけ)エリアにて、描き売られていた民俗絵画です。いわゆる民画でして、民衆の生活や行事に根ざした慣習や出来事などを題材として描かれたものです。

この大谷・追分エリアは、文字通り、東山山麓の街道の分岐点であり、交通の要所であったので人の往来が凄まじかったそうです。そういった人、特に旅人に向けて、関西土産の民画として、大津絵は販売されていたそうです。

民画とは、民藝家として著名な河井寛次郎(かわいかんじろう)氏や柳宗悦(やなぎむねよし)氏が名付けた名称でもあり、昭和の民藝運動の盛り上がりもあってか、大津絵は少しずつ知名度を高めていきました。

大津絵ではさまざまな画題を扱い,仏画・風刺画・武者絵・美人画・鳥獣画などレパートリーが豊富です。

なぜそんなに題材が多いかというと、大津絵のタッチにあります。

そのコミカルなタッチで、どんな真面目な題材も大津絵職人にかかれば、特徴を捉えつつも、くだけて洒落た、不思議と愛着が湧く絵に仕上がります。

東海道を行き交う旅人たちのお土産ものとして、また時には床の間や仏壇に飾る掛軸や仏画の代わりに購入されたりしていたそうです。

大津絵の歴史

大津絵の歴史は、じつは定かではありません。

江戸時代に描かれ始めたという人がいたり、戦国時代からだ、という方もいっらしゃいます。

膳所藩士(ぜぜはんし)であった寒川辰清(さんがわ とききよ)氏が、1734年に作成した近江国(いまの滋賀県)の地誌である”近江輿地志略”(おうみよちしりゃく)には、以下のように書かれています。

…是を大谷絵あるひは大津絵、追分絵、浮世絵などとよべり…

                          寒川辰清「近江輿地志略」

こちらの地誌が発刊された18世紀には確実に存在していて、名称もだんだんと”大津絵”と呼ばれるようになっていったようです。

さらに古い、大津絵の記録を見てましょう。

大津絵の 筆のはじめは 何仏(なにぼとけ) /松尾芭蕉

三重県出身で、江戸時代前期の俳諧師として有名な松尾芭蕉の一句です。

最後の段落に”何仏(なにぼとけ)”というワードがはいっていますが、まだこの時は、信仰画の要素が強かった時期だと考えられています。

大津絵の種類

先述したように、大津絵の題材は仏画や鳥獣画、美人画、社会風刺など多岐にわたっているため、100種類をゆうに超えます。

それは戦国時代より本願寺の仏絵師の時代からはじまり、江戸時代の260年間のお土産ものとしてレパートリーが増え、文化として定着していたがため、どんどん画題が増えていったためです。

こちらでは、その題材の中でも、代表的な大津絵の意匠をいくつかご紹介します。

大津絵「鬼の寒念仏」

寒念仏(かんねんぶつ)とは、一年でもっとも寒さの厳しい小寒から立春の前日までの30日間にわたり、鉦(しょう)をたたきながら大声で念仏を唱え、仏堂・山内・墓地・街頭などを巡回し報恩感謝を表する念仏のことです。

下記の画では、恐ろしい顔をした鬼が、聖職であるお坊さんの衣服である袈裟(けさ)を着て、さらには肩から紐掛けの鉦(しょう)、右手には鉦を鳴らす鐘木(しょうき)、左手には奉加帳(ほうがちょう)をもっています。まさにこの寒念仏のシーンをゆるく描いています。

これは恐ろしい内面を持った人が、聖職の格好をしながら、お布施ふせをこう、偽善者をコミカルな絵柄で皮肉ったギャップを楽しめる画題です。

滋賀県の民画である大津絵の題材「鬼の念仏」

当時の拝金主義的な仏教界への皮肉や、人間の内面性の怖さを表した意味合いがあります。

奉加帳(ほうがちょう)とは、奉加する金品や寄進(寄付)者の名をしるす帳面です。

鉦(しょう)とは、楕円形の金属素材の楽器で、「鉦鼓」(しょうこ)とも呼ばれます。仏事では念仏や読経の時に木のばちで打ち鳴らし拍子を取るために用いられます。

大津絵「藤娘」

藤娘(ふじむすめ)は、”鬼の寒念仏”同様に大津絵を代表する絵柄です。古くからある題材で、衣服や手には藤の花が描かれており、当時流行したと言われる京都愛宕山(あたごさん)の神社にお参りする”愛宕詣”(あたごもうで)に行く女性を描いたものではないかと言われています。

大津絵「藤娘」

皮肉や社会風刺の強い大津絵の中ではめずらしく美人画のカテゴリーにはいる画題です。

こちらは良縁のお守りとして、飛ぶように売れていたようです。

江戸時代からつづく良縁のお守りってなんだか素敵ですね♪

大津絵「雷公の太鼓釣り」

これもまた滑稽な洒落のきいた題材です。

雷公の太鼓釣り(らいこうのたいこつり)は、雷様が、雷を、起こすための太鼓を落としてしまい、急いで拾っている様子が描かれています。

どんなにその道で熟達した人でも、失敗はするものだし、その教訓でもあり、しかしその様子も滑稽であるといったような絵ですね。

滋賀県大津市の民芸品”大津絵””の「雷公の太鼓釣り」

大津絵「瓢箪鯰」(ひょうたんなまず)

その昔、室町幕府の将軍である足利義持(あしかがよしもち)が画僧如拙(じょせつ)に描かせた禅画”瓢鯰図”(ひょうねんず:国宝)が、京都の妙心寺にありますが、その題材をモチーフに描かれた大津絵です。

滋賀県の大津絵掛け軸「瓢箪鯰」(ひょうたんなまず)

鯰はその体面がぬるぬるしており、瓢箪に入ると簡単に考えてしまった当時の人は、瓢箪に鯰(なまず)をいれようとしますが、まったく捕まえられません。その様子を、昔から思慮が足りない人のことを猿知恵や猿といって揶揄していた世相を皮肉しり、笑いを誘った作品です。

また世の中には、このようにひらりひらりと人の意見や忠告をかわしたり、要領を得ない人を揶揄する画でもあると言われております。

地方文化を盛り上げたい。

私ごとですが、地方文化や伝統工芸をもっと盛り上げたいと思っています。

いま日本の社会問題としてあげられる伝統産業の担い手不足や、地方からの若者流出、人口減少、限界集落問題などがあります。

たくさんの要素がかさなって、こういった社会問題が発生していますが、わたしは地方文化や伝統産業の魅力をもっと広報PRすることで、サポートしていきたいと考えています。

地域の人がみんなで守ってきた文化や風習、慣習。そこには優しい魅力があり、その魅力を発信して理解してもらうことが地域への愛着につながり、問題解決の小さな糸口になると考えおります。

みんな地方文化を盛り上げましょう!

大津絵発祥の滋賀県大津市にいってみた

滋賀県大津市は、古くは天智天皇の大津京からはじまり、琵琶湖の南西部、京都市と境に位置している中核都市です。

江戸時代には、東海道や中山道が合流する、交通の要所として栄えたエリアであり、観光では、広瀬すずちゃんや新田真剣佑くんが出演して話題になった”ちはやふる”の舞台になった近江神宮や、佐藤健さんが出演された”るろうに剣心”のロケをおこなった日吉大社が有名です。

滋賀県大津駅にてさっそく大津絵に遭遇

夏のJR大津駅前の様子

JR京都駅から電車で約10分、2駅ほどでJR大津駅に到着します。

さすが大津絵発祥の地、玄関口であるJR大津駅から、大津絵が出迎えてくれます。

こちらの画は大津絵の「藤娘」と「鷹匠」(たかしょう)ですね。

JR大津駅にある大津絵

縁起ものの絵が、今回の旅を見守ってくれているようです。幸先が良いですね♪

大津絵は民衆によって育てられた絵画なので、それこそ大津市や滋賀県内の老舗には、レアな大津絵が飾られているかもしれません。いろんな大津絵をご覧いただけるように、記事後半には大津絵観覧スポットを記載しておきます。

大津絵発祥の地「追分宿」へ行ってみた。

京阪電鉄「追分駅」にある大津絵

京阪電鉄「追分駅」につくと、ここもまた大津絵が出迎えてくれます。

さすが発祥の地です。

民衆が育てた文化は地域に根付きますね。

大津絵発祥の地「追分宿」

ここが追分宿の由来・語源となった中山道の分かれ道です。

交通の要衝であり、かつては大津絵のお店が軒を連ねて、旅人に声をかけて、大津絵を売っていたのでしょうか。

町内を歩いてみると、かつての宿場町を説明する看板がありました。

東海道と伏見街道の分岐点、この道沿いにズラーーーツと沢山のお店が並んでいたようですね。

大津絵発祥の地「追分宿」

生きるのも大変な江戸時代に、絵を描いて売る、という職業が成り立つとは、よほど人気があったのでしょうか。

ますます大津絵に興味がでてきませんか?

もっと大津絵のことを勉強するために、おなじ大津市にある大津絵ギャラリー胡径庵さんをご紹介します。

大津絵ギャラリー胡径庵(こけいあん)

今回は、京都在住のわたしが、いつも大津絵を教えていただいている大津絵ギャラリー胡径庵さんにて、大津絵職人である胡径さんから学んだ大津絵のことをまとめていきます。

ーーーー基本情報ーーーー

住所:〒520-0105 滋賀県大津市下阪本2丁目19-20

問い合わせ先:10:00~16:00 ※予約制 必ずお電話で事前にご確認ください。

営業時間:077-579-8517

アクセス:JR「唐崎」駅から徒歩約14分、京阪電車「穴太」駅から徒歩約7分

※訪問される際は必ず事前にご連絡して日程調整をしてください。

京阪電車「穴太」(あのう)駅から徒歩約7分、石積みで有名な”穴太積”(あのうづみ)の石垣道を歩いていくと、大津絵ギャラリー胡径庵(こけいあん)に到着します。

昔ながらの近江町屋がつづくエリアで、大津絵職人である胡径先生は1人でギャラリーを運営されています。

屋根の高い古民家を改築した大津絵ギャラリーに到着すると、大津絵の行灯が出迎えてくれます。

滋賀県大津市の工芸品「大津絵」(おおつえ)

ギャラリーのなかに入ると沢山の大津絵たちが出迎えてくれます。

こちらは大津絵の屏風や襖(ふすま)です、

この2枚はお気に入りです。

上の額に入ってるほうが「天狗と象」、下の屏風になっているのが、さきほども紹介した鬼の念仏をはじめ、鬼を題材にした大津絵各種です。

天狗と象の画の中には「天狗と象 天狗でも鼻高くして油断するな:くらぶれば 長し短しむつかしや 我慢の鼻の置きどころなし」と書かれています。

これはどちらも長い”鼻(=高慢なことを鼻が高いと説いている)”を皮肉った作品です。

どんなものにも上には上がいる、どんな時も高慢ちきにならず、努力しなさいという風刺でもあります。

大津絵「天狗と象」と鬼を題材にした屏風

屏風にあるのは、向かって左から「鬼の行水」、「福は外」、「鬼の寒念仏」、「雷公の太鼓釣り」です。

「鬼の行水」はとは、内容が鬼が風呂に入り、桶で行水しようとしている構図です。これは外見だけ綺麗になろうとしている人間を皮肉った風刺画であり、どこか恥ずかしそうな鬼の可愛さというギャップを楽しめる作品です。

「福は外」とは、面白いネーミングですが、内容は鬼が豆まきで、福の象徴である大黒様を追いやっている構図になっています。体裁だけ整えて、内面が悪いうちは、福が逃げてしまうという皮肉です。

開運なんでも鑑定団の常連!あの富岡鉄斎の大津絵!

富岡鉄斎(とみおかてっさい)氏は、明治・大正期の文人画家・儒学者であり、煎茶道も嗜んでいたとか。日本最後の文人(ぶんじん:中国趣味の知識人)と言われています。水墨画や漢詩、禅語を掛け軸に書いたりと作品が多く残っており、あのテレビ東京「開運なんでも鑑定団」では、横山大観と並ぶ二大人気の画家です。

その富岡鉄斎氏の大津絵があるというので拝見させていただきました。

大津絵の昔の筆をなら江ども及ばぬものは心なりけり。 富岡鉄斎句

富岡鉄斎氏の大津絵

いまは神社に寄贈しており、その写しを見せていただきました。

おそらくどなたも富岡鉄斎氏が大津絵を描いていたとはご存じないのではないでしょうか、貴重な体験でした。

大津絵の横に道絵が添えられており、味がでますねえ。

胡径さんに大津絵の魅力について聞くと「温かさ」だという。その理由について聞いてみると「大津絵を描いていると、どの大津絵も、人のために作られている。子供のため、地域の人のため、旅人のためになるよう願いを持って描かれている。人生の教訓を教えてくれる先生のような優しさ、温かさが魅力」という。

大津絵を学ぶなら「大津市歴史博物館」

大津市歴史博物館は、琵琶湖を見下ろす高台に位置しており、古都・大津の歴史的な資料や、先人たちの足跡である文化財を収集し公開する目的で造られた施設です。歌川広重の浮世絵(近江八景)や大津絵、東海道五十三次の大津宿や天智天皇の大津宮の姿を復元模型など、豊かな大津の歴史や文化を分かりやすく展示しています。

なかでも大津絵のコレクションは豊富で、定期的に大津絵の特別展なども行われており、大津絵マニアには欠かせない博物館です。

ーーーー基本情報ーーーー

住所:〒520-0037 滋賀県大津市御陵町2−2

問い合わせ先:TEL077-521-2100

営業時間:9時~17時(毎週月曜日定休)

アクセス:京阪電鉄 石山坂本線「大津市役所前(旧駅名:別所)」駅下車徒歩5分、JR湖西線「大津京」駅下車徒歩15分

大津絵を見るなら「大津絵 美術館」

大津絵美術館は、園城寺町の天台宗大本山(てんだいしゅうだいほんざん)である円満院境内(えんまんいんけいだい)にあります。昭和46年に、こちら円満院の門主(もんしゅ:門跡寺院のご住職)が所蔵してきた大津絵などレトロなものからオーセンティックな大津絵作品を広く公開する場として開館されました。

江戸時代の画家である円山応挙(まるやまおうきょ)の絵のほか、鳥羽僧正の「放屁合戦」(ほうひがっせん)なども見ることができます。とくに円山応挙については、こちらの寺院に住み込みで画の勉強をされていたとのことで、かなりレアな作品まで見ることができます。

受付前のショップでは、大津絵の掛軸や色紙なども販売されているので、ぜひお土産屋やご自宅用にお買い求めくださいね。

ーーーー基本情報ーーーー

住所:〒520-0036 滋賀県大津市園城寺町33

問い合わせ先:TEL:077-522-3690 FAX:077-522-3150

営業時間:午前9時~午後4時半迄

拝観料:大人500円、高校生300円

駐車場:30台(圓満院門跡)

アクセス:京阪電鉄 石山坂本線「大津市役所前(旧駅名:別所)」駅下車徒歩5分、JR湖西線「大津京」駅下車徒歩15分

大津絵の店・高橋松山

江戸時代から続く滋賀県の伝統工芸品である”大津絵”の職人・高橋松山さんが営む工房兼ギャラリーです。

現在は4代目の高橋松山氏が技を受け継いでいおり、5代目の高橋信介氏とともに、工房を運営しています。

店内には、大津絵の絵はがき、版画セットのほか、皿、ひょうたん、色紙などが販売されています。

ーーーー基本情報ーーーー

住所:〒520-0034 滋賀県大津市三井寺町3−38

営業時間 10:00~17:00

問い合わせ先:077-524-5656

アクセス:JR大津京駅から徒歩20分、自動車で5分、京阪三井寺駅から徒歩10分